遺伝性
乳がん卵巣がん(HBOC)
遺伝子検査などに関する用語集

HBOC診断後の臨床での対応に関する情報

あ行 の用語一覧

遺伝
遺伝子によって、見た目や体質などの特徴が次の世代に受け継がれることを指します。病気の発症に関わる特徴が受け継がれることで、遺伝性疾患・遺伝性のがんの発症につながります。遺伝形式にはさまざまあり、次世代に引き継がれる可能性は遺伝形式により異なります。
遺伝カウンセラー
認定遺伝カウンセラー」を参照。
遺伝カウンセリング
染色体や遺伝子が関与している生まれつきの疾患や特性、体質に関するさまざまな問題を相談し、正確な情報提供、理解を助けるためのカウンセリングです。専門的な知識を持つ医師や認定遺伝カウンセラーなどを中心に適切な情報を伝え、相談した方が最適な方向性を選べるようサポートします。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)では、遺伝子検査の前や結果を伝えるときに行われ、診断後も継続して実施されます。患者さんのご家族も受けられます。

医療機関によってカウンセリングのタイミングや回数は異なります。

遺伝学的検査
遺伝子検査のひとつで、染色体や遺伝子が関与している生まれつきの疾患や体質について、主に血液を採取して調べます。遺伝性のがんが疑われる場合、検査のターゲットとしている遺伝子にがんとの関連が強い変化(病的バリアント)があるかどうかを調べます。
遺伝子
DNAの一部で、私たちの体を構成するさまざまなタンパク質の構造を決定しています。ヒトの場合、約2万種類の遺伝子を持っているといわれており、遺伝子ごとにさまざまな機能があります。
遺伝子検査
採取した血液やがん組織から遺伝子を分析し、その中で起きている変化を調べる検査で、病原体遺伝子検査、体細胞遺伝子検査、遺伝学的検査に分類されます。がんの治療においては、遺伝性のがんの診断や、特定の薬剤が使えるか調べるために用いられます。
遺伝子検査サービス
DTC(Direct to Consumer)遺伝子検査サービス」を参照。
遺伝子多型
遺伝子に生じている変化のうち、少なくとも100人中1人以上の人が持っているもののことを一般的にいいます。この中には、疾患のなりやすさに関係している変化(病的バリアント)、関係していない変化、それぞれが含まれています。一般集団における頻度が高いことから、疾患のなりやすさと関係していないと判断されることがあります。
遺伝子の変化(バリアント)
DNAを構成する塩基の並びが標準的なものと異なっていることを指し、後天的な要因で生じたり、生まれつき持っていたりします。がんなどの疾患のなりやすさに関係している変化を「病的バリアント」と呼びます。遺伝子の変化のうち、後天的な変化は「体細胞遺伝子変異(体細胞変異)」と呼ばれることもあります。
遺伝性疾患
定義はさまざまですが、主に卵子や精子になる生殖細胞に生じた遺伝子の変化によって起こる疾患や体質のことを指し、親から遺伝することもあります。その中には、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を含む遺伝性のがんも含まれています。
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)
BRCA1BRCA2という遺伝子に生まれつきがんとの関連が強い変化があり、乳がんや卵巣がんなどになりやすい体質を指します。「若い年齢でがんを発症しやすい(若年性)」「複数のがんを発症しやすい(重複がん)」「家系内で多くの人ががんを発症する(家族集積性)」などの特徴があり、乳がんでは全体の4~5%、卵巣がんでは全体の10~15%がHBOCであるといわれています。
遺伝性のがん
生まれつきの遺伝子の変化を持つことでがんになりやすい体質を持つことを「遺伝性のがん」と総称しています。ほとんどのがんは、放射線や特定の化学物質、紫外線や喫煙などの環境要因により、後天的に特定の組織の細胞の遺伝子に変化が生じた結果、発症します。それに対し、遺伝性のがんでは、全身の細胞の遺伝子において、生まれつきがん細胞の発生と強く関連している変化が生じています。
陰性
検査において、病気の存在を示す情報が検出されなかった場合を陰性といいます。BRCA1/2遺伝子検査などの遺伝子検査においては、病的バリアントがない場合を陰性としています。
インプラント
乳房再建術」を参照。
腋窩(えきか)リンパ節
体内には、栄養補給のための物質や老廃物を運ぶ働きを持つ、リンパ液の通り道が張り巡らされています。その途中にある器官をリンパ節といいます。リンパ節のうち、わきの下、乳房周囲にあるのが腋窩リンパ節で、乳がんでとくに転移しやすい器官です。
エストロゲン
女性ホルモンのひとつです。妊娠・出産の機能や女性らしい体つきにかかわるもので、主に卵巣内で卵子を包む卵胞から分泌されます。乳がんの中にはエストロゲンの影響を受けて分裂・増殖するものがあります。そうしたがんは、エストロゲンと結びつくエストロゲン受容体を備えています。

か行 の用語一覧

家族歴(血縁者)
親族の治療中の病気や、過去に治療した病気のことを指します。主に遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)などの遺伝性のがんでは、患者さん自身から見て3世代、具体的には父母、兄弟姉妹、子ども、祖父母、叔父・叔母、甥・姪などを指す「第3度近親者」までの血縁者でがんを発症した方がいないかを確認します。なお、HBOCの特徴のひとつには、「家系内で多くの人ががんを発症する(家族集積性)」というものがあります。
がん
体の細胞の一部が異常な細胞(がん細胞)となり、体内で無秩序に増えていく病気のことです。細胞の増殖やDNAの修復など、重要な機能を持つ遺伝子に変化が生じることが、がん細胞の発生につながります。
がん遺伝子パネル検査
がんの組織や血液を使って、多数の遺伝子の塩基配列を迅速に解読し、一人ひとりに合った治療を目指す検査です。検査結果はエキスパートパネルという専門家の集まりで検討し、それを参考にして患者さんに治療法を提案します。条件を満たせば保険診療で受けられます。
環境要因
遺伝子が変化する原因のひとつです。たとえばタバコや酒に含まれる有害物質がDNAを傷つけることで、遺伝子の変化を引き起こすこともあります。ほかの具体的な要因として、放射線や特定の化学物質、紫外線などがあります。
がん検診
がんを早期に発見・治療し、がんで亡くなることを防ぐために提供されている検査です。日本では主に市区町村が実施する住民検診、事業者や保険者が実施する職域検診、そのほか、個人が任意に受ける検診で行われます。がんで亡くなる方を減らす効果が確実で、検査による利益が不利益を上まわると科学的に証明されているのは、日本では乳がん、子宮頸がん、胃がん、大腸がん、肺がんの5つです。
がん抑制遺伝子
遺伝子のうち、異常な細胞を排除したり増えるのを抑えたりする、遺伝子に生じた変化を修復する、などの役割を持つ遺伝子のことをいいます。がん抑制遺伝子がうまく働かなくなるような変化が起こることで、細胞の異常な増殖を抑えることができなくなり、がんの発生につながることがあります。
キャンサー
Cancer」を参照。
血縁者
家族歴(血縁者)」を参照。
ゲノム医療
染色体に含まれる、遺伝子を含めた遺伝情報全体を意味するゲノムを調べ、診断や治療に役立てる医療です。それにより、一人ひとりの体質や病状に合わせた治療につなげられる可能性があります。がんに用いる場合、「がんゲノム医療」と呼ばれます。
原発性
特定の臓器を形作る細胞そのものからがん細胞が生じることを指します。一方、あるひとつの臓器に生じたがん細胞が血液やリンパ液によって別の臓器まで運ばれ、そこで新たにできた病巣を転移性といいます。
高額療養費制度
医療機関や薬局で支払った額が、ひと月(月の初めから終わりまで)の上限額を超えた場合に、超えた分の金額を支給する公的な制度です。上限額は年齢や所得によって異なっています。支給は、自身が加入している公的医療保険(健康保険組合、共済組合など)に支給申請書を提出することで受けられます。また、限度額適用認定証の交付を事前に受けることで、上限額を超える分を払わずに済ませることもできます。
抗がん剤
がん細胞の増殖を防いだり、死滅を促したりする薬です。細胞が増殖する仕組み自体を攻撃する、特定のがんの増殖に関係するホルモンの分泌や働きを阻害する、がん細胞が免疫を防ぐ働きを阻害するなど、効果を発揮するメカニズムによってさまざまな種類に分類されます。
コンパニオン診断
特定のがんに対して、使用を検討している薬剤が患者さんに適しているかを事前に調べるための検査です。たとえば、特定の遺伝子の変化がある場合に有効な薬を使用する際、その変化が実際に生じているか、生検や手術で採取した組織や採血で得た血液を用いて事前に確認します。

さ行 の用語一覧

サーベイランス
がんを早期発見するための定期的かつ精密な検査です。主に遺伝子の変化によって、がんになるリスクが高くなっている方に対して行われます。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)では乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がんなどにおいて実施が検討されます。
再発
一度治療できたようにみえたがんが、期間をおいて再度生じることです。初回の治療で目に見えない大きさのがんを治療しきれないことで生じます。現在では再発を防ぐため、手術でがんを取り除くのと併用して、抗がん剤や放射線治療を行うことも増えてきました。
細胞死
体を作る一つひとつの細胞の死を意味します。体の機能を一定の水準に保つ、体を成長させるなどの目的のために予定されている細胞死と、外傷や障害、病気などを原因として生じるような、予定されていない細胞死に分けられます。がんに対する薬や、放射線治療も細胞死を促すことで治療効果を得ているものがあります。
サブタイプ
乳がんの特徴による分類のことで、どのサブタイプかによって有効な薬が違ってきます。サブタイプはがん細胞の増殖能力が高いか、女性ホルモンにより増殖する性質を持つか、がん細胞の増殖に関わるタンパク質の発現が多いか、という3つの観点の組み合わせで分類されています。治療の際には針生検で採取した組織からサブタイプを調べます。
自家組織
乳房再建術」を参照。
自己検診
セルフチェック(自己検診)」を参照。
次世代シーケンサー
生検や手術などで採取されたがんの組織を用い、多数の遺伝子の塩基配列を迅速に解読する検査装置です。がん細胞の遺伝子を調べて治療方針の決定に役立てる「がん遺伝子パネル検査」で活用されています。
自然閉経
自然な状態で、月経が発来しなくなった状態のことです。月経が来ない状態が12ヵ月以上続いたときに閉経とみなされます。個人差はありますが、日本人女性の平均閉経年齢は約50歳とされています。閉経の起こる前後では、卵巣の機能が低下して、女性ホルモンの分泌量が徐々に減少していくことで、疲労感・ほてり・冷えなど、更年期症状と呼ばれる症状が生じることがあります。
若年性乳がん

若年で発症する乳がんです。一般的に35歳未満または40歳未満に発症する乳がんを指します。なお、日本の乳がん患者全般で年齢別の罹患率を見た場合、45~49 歳で最初のピークを、70~74 歳で2回目のピークを迎えます1)。2019年に日本で乳がんと診断された数は、総数97,812例に対し、40歳未満は3,675例でした2)

  1. 1)厚生労働省健康局がん・疾病対策課「平成31年(令和元年)全国がん登録 罹患数・率 報告」
  2. 2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
自由診療
公的な医療保険が適用されない技術や薬による医療のことです。1~3割の費用負担で済む保険診療とは異なり、すべての費用が患者自身の負担になります。保険診療との併用は原則として禁止されており、併用した場合は保険診療で行われる部分も自由診療として受けることになります。ただし、厚生労働省に「先進医療」として指定された一部の治療では、指定された治療だけを自費で払い、保険診療と同等の内容については保険が適用されます。
手術
がんが生じている部位・組織を直接切除する治療で、がんの3大療法のひとつとされています。主にがんが臓器内など、一定の範囲内にとどまっている場合に選択されます。一般的に手術を行う場合には、転移や取り残しがないよう、周囲の組織やリンパ節を含めて必要かつ十分な切除をします。手術によってがんをすべて取り除くことができれば、完治の可能性が高まると考えられます。
腫瘍マーカー
特定のがんが作ったり、がん周辺の組織ががん細胞に反応して作ったりする、タンパク質などの物質です。血液や尿など、体液内に含まれることがあるため、その値を測定することで、診断の参考にします。がんの位置や大きさなどはわからないため、診断自体は画像診断など、ほかの検査と合わせて総合的に判断します。
浸潤がん
生じた組織だけでなく、周辺の組織まで広がっているがんです。乳がんでは、乳管や小葉に生じたがんが周辺の組織まで広がっている段階を指します。一方、生じた組織にがん細胞がとどまっている段階を非浸潤がんといいます。
膵がん

胃の後ろにあり、食物の消化を助ける膵液や、体の機能を調節するさまざまなホルモンを分泌している膵臓で生じたがんです。膵臓が体の奥深くにあるうえ、がんが小さいうちから膵臓の周りのリンパ節や肝臓に転移しやすいため、早期発見がむずかしいがんとして知られています。近年患者数が増加しており、日本人の臓器別に見たがんの死亡数4位となっています1)

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
ステージ
病期」を参照。
生殖細胞系列変異(病的バリアント)
生殖のために必要な細胞である卵子や精子になる生殖細胞に存在する変化のことです。両親のどちらか、あるいは両方が持つ変化を受け継ぐことで子に体質が共有されます。この変化を持つ人は、自身の生殖細胞の遺伝子にも変化が存在しているため、さらに子どもへ受け継がれる可能性があります。
セカンドオピニオン
病気の状況や今後の治療の選択などについて、主治医とは別の医師に意見を求めることです。転院や担当医の変更とは異なり、主治医を変えることなく行います。その際は、紹介状(診療情報提供書)や検査結果などを主治医に用意してもらうことが必要です。
セルフチェック(自己検診)
乳がんの早期発見のため、乳房に何らかの症状が生じていないかを自身で確認することです。乳がんでは、代表的な症状である乳房のしこりのほか、乳房のくぼみ・形の変化、乳頭・乳輪のただれ、乳頭からの分泌物など、見たり触ったりして気づく症状があります。乳がんの早期発見のため、そうした症状の有無など、乳房の状態に日頃から注意することを「ブレストアウェアネス(乳房を意識するための生活習慣)」といいます。
染色体
細胞の核の中にあり、DNA・遺伝子などが格納されています。ヒトの場合、染色体はひとつの細胞の中に46本あり、両親から23本ずつ受け継ぎ、それぞれで2つ1組を作ります。44本は常染色体といわれ、両親から同じものをひとつずつ受け継ぎます。残りの2本は男女の性別を決定づける性染色体で、XとYの2種類あるため、両親から受け継いだ染色体によって組み合わせが異なり、性別を規定します。
センチネルリンパ節生検
乳がんの治療においては、乳がんにもっとも近い、わきの下にあるリンパ節(腋窩リンパ節)を調べる検査のことを指します。センチネルとは「見張り」の意味で、乳房からリンパ管に入ったがん細胞が最初にたどり着く場所であるため、そのように呼ばれています。手術中にセンチネルリンパ節を摘出し、がんが転移していないかを調べることで、切除する範囲を決めていきます。
専門医
外科、産婦人科など、特定の分野で科学的根拠に基づいた、もっとも適切な診断・治療を提供できることを示す医師の資格です。資格を取得するためには、一定の研修を重ねたうえで認定試験に合格する必要があります。取得後も、原則として5年ごとに更新があるため、つねに最新の技術を学び、診療実績を積む必要があります。
前立腺がん

膀胱の下にあり、尿道を取り囲んでいる男性特有の臓器である前立腺に生じるがんです。早期発見のため、前立腺から分泌される、PSAという物質の血中濃度を調べる検査が行われています。日本人男性におけるがん罹患数1位1)となっていますが、早期に発見すれば治癒することが可能で、多くの場合、比較的ゆっくり進行します。ただ、HBOCと診断された男性は、前立腺がんのリスクが高いだけでなく、進行が早いなど、通常の前立腺がんとは異なる特徴を持つ可能性が報告されています。

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
相同組換え修復欠損(HRD)
DNAの損傷を修復する仕組みのひとつである、「相同組換え修復」が正確に働かないことをいいます。たとえば、卵巣がんでは約半数で相同組換え修復欠損が認められ、発がんのきっかけと考えられています。相同組換え修復欠損の有無はがんの組織を解析する遺伝子検査で調べられます。
相同染色体
ヒトの細胞の核の中にあり、同じものが2つ対になっている染色体のことを指します。それぞれひとつずつ両親から受け継がれます。

た行 の用語一覧

体細胞遺伝子検査
遺伝子検査のひとつで、皮膚や内臓など、体の各組織を作る体細胞に生じた、後天的な変化について調べます。がんにおいては、がんの組織や、採取した血液・骨髄液などを用い、がん細胞で起きている遺伝子の変化を調べます。検査結果を踏まえ、がんの診断や、どの薬剤が有効か、副作用が出やすいかなどについて判断します。
体細胞遺伝子変異(体細胞変異)
生殖細胞以外の、皮膚や内臓など、体の各組織を作る体細胞において、生まれたあとに生じた変化です。正常な細胞が環境などの要因で後天的に変化することで、がんの発症につながります。この変化は次の世代には受け継がれません。
対策型検診
特定の集団全体の死亡率の減少を目的に、公共政策として行われる検診のことをいいます。集団の中で、検診の条件を満たした全員に対し、科学的に有効であることが証明された検診が提供されます。一方、人間ドックなど、一人ひとりが自身の死亡リスクを下げるために受ける検診を任意型がん検診といいます。
多発性
臓器の中で複数のがんを同時に発症していることを指します。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された方は、片側あるいは両側の乳房で多発性の乳がんを発症しやすくなるといわれています。
男性乳がん

男性がかかる乳がんで、治療も女性の乳がんと同じように進められます。患者数は2019年で670人1)と少ないものの、性別を問わず近親者で乳がんになった人がいる男性だと発症するリスクが高まるとされ、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)との関連が知られています。

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
超音波検査
超音波を使って体内の状態を調べる検査です。体内に超音波を照射し、病変などに反射したものを捉えて映像にします。放射線を使う検査と違い被ばくの心配もありません。
乳がんの検査では、若い人に多く見られる、乳腺の濃度が高い乳房においては超音波検査が適している場合があるため、マンモグラフィと使い分けて実施されます。
卵巣がんの検査では、がんの大きさや性質、位置などを調べるために用いられます。腟の中から超音波をあてて調べる経腟超音波断層法検査が一般的に行われます。
治療選択
がんを含め、病気の治療を進める際、患者さん自身の意思で、どの治療を選ぶかを決めることができます。医師は、最適な治療を一緒に考えられるよう、がんの状態や進行の程度、体調などを調べたうえで、科学的根拠に基づき、現在行える治療に関する情報を提供します。
転移
あるひとつの臓器に生じたがん細胞が血液やリンパ液によってほかの臓器まで運ばれ、そこであらたに病巣を作ることです。転移したがんのことを転移性といい、転移元のがんと同じ性質を持つため、治療もそれに準じて行われます。
トリプルネガティブ乳がん
近年、がん細胞の増殖などに関わる分子を標的とすることで、高い治療効果が期待できる薬が使われるようになりました。トリプルネガティブ乳がんでは、そうした薬のターゲットとなる、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2(ハーツー)の3つが、いずれもがん細胞の表面に発現していないため、使用できる薬が限られています。BRCA1遺伝子に変化がある場合の乳がんは、変化が見られない場合の乳がんに比べてトリプルネガティブ乳がんの割合が高いとされています。

な行 の用語一覧

乳がん

主に乳腺の組織にできるがんで、日本では女性における、がん罹患数1位(2019年)、がん死亡数4位(2021年)となっています1)。初期のうちは乳房内にとどまっていますが、進行すると乳房近くのリンパ節や、骨、肝臓、肺、脳へと広がっていきます。発生には女性ホルモンや、生活習慣などが関わるほか、BRCA1BRCA2などの遺伝子に生まれつき病的な変化を持つ場合、発症する確率が高くなることが知られています。

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
乳房温存療法
乳がんの手術において、がんのある乳房すべてを摘出するのではなく、がんとその周辺の組織の切除にとどめて、乳房をできるだけ温存する手法です。術後は再発を防ぐため、放射線治療が行われます。乳がんが広がっていない、比較的早期の患者を対象として行われますが、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に関連する乳がんの場合は積極的には勧められていません。
乳房再建術
乳がんの手術などで乳房を全摘したあと、失われた乳房をできる限り取り戻すために行われる手術です。再建では、自分の組織を背中や腹部から採取して使う方法と、人工物(インプラント)を挿入する方法があります。手術のタイミングは、がんの切除と同時(一次再建)か、がんの切除後しばらく経過してから(二次再建)に分かれます。
認定遺伝カウンセラー
日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同で認定している資格です。遺伝医療を必要としている患者さんや、そのご家族に、遺伝に関する適切な知識や支援体制など、さまざまな情報を提供するとともに、心理的・社会的サポートも行い、自分自身での意思決定を支えます。認定を受けるためには、診療の現場における一定の経験を積んだうえで、知識やカウンセリング技術、倫理観、多職種との連携などについて一定の水準を満たしていなければなりません。

は行 の用語一覧

針生検
針のような専用機器を使って病変が疑われる部位の組織を採取し、がん細胞か否かを調べます。乳がんに対しては、マンモグラフィや超音波検査で病変の疑いがある場合の精密検査として行われます。患者さんにとっては少し負担のある検査で、局所麻酔を併用しながら行われますが、通常は入院することなく受けられます。
非浸潤癌
浸潤がん」を参照。
病期
がんがどのくらい進行しているかを示すものです。広く使われているのが、0からⅣ(4)までの数字で示すというもので、ごく早期のがんを0とし、進行に伴って数字が増えていきます。それぞれのがんで病期の区切り方は異なりますが、主にがんの大きさや組織の性質、周辺の組織への広がり、別の臓器への転移などを踏まえて判断されます。
病原体遺伝子検査
遺伝子検査のひとつで、感染症を引き起こすウイルスや細菌などのDNA・RNAを検出・解析します。たとえば、患者さんから採取した喀痰などを検体とし、その中に特定のウイルスや細菌のDNA・RNAが含まれていないかを解析することで、病気にかかっているかいないかを調べます。
標準治療
科学的根拠に基づき、その時点で受けられる中でもっとも適している治療のことをいいます。薬や治療技術は、開発後、臨床試験を経てから実際に導入されます。その後、多くの専門家によって有効性と安全性を確認し、従来の治療より優れていると合意が得られた時点で初めて標準治療として認められます。
病的バリアント
遺伝子に生じた変化(バリアント)のうち、がんなどの病気のなりやすさに関係している変化のことを指します。親から受け継がれることがあり、病的バリアントを持つことで、特定の病気にかかりやすくなる場合があります。
腹腔鏡手術
お腹を大きく切開せずに、数センチの穴を複数箇所開けて、そこから先端にカメラや鉗子、ハサミのついた器具を挿入して病変を切除する手術です。開腹手術に比べて体への負担が少ないため、術後の痛みが少なく、早期退院も可能で、傷跡も目立ちにくくなります。婦人科の手術における活用例として、良性の卵巣腫瘍の手術や、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に関連する卵巣がんを防ぐために行われる、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が挙げられます。
副作用
抗がん剤などの薬や手術、放射線治療など、がんへの治療を原因として副次的に生じる症状です。がんの治療ではがん細胞だけをピンポイントで取り除くことは難しく、抗がん剤や放射線が正常な細胞まで攻撃する、手術で臓器をすべて摘出したり、がん周辺の組織にダメージを与えたりするなど、正常な組織に悪影響を及ぼした結果、何らかの症状が現れることがあります。
腹膜がん
お腹の中にあり、胃や小腸、大腸、肝臓など、内臓の表面をおおっている、腹膜という組織に生じるがんです。がんの組織の状態は卵巣がんに似ており、女性では診断や治療の方法も卵巣がんと同じように進められます。年間の発症者数は少ないのですが、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に関連して発症することがあります。
ブレストアウェアネス
セルフチェック(自己検診)」を参照。
プロゲステロン
女性ホルモンのひとつです。子宮に作用して妊娠の準備を整える働きがあり、排卵後に卵胞が変化して生じる黄体から分泌されます。乳がんの中にはプロゲステロンの影響を受けて分裂・増殖するものがあります。そうしたがんは、プレゲステロンと結びつくプロゲステロン受容体を備えています。
分子標的薬
病気の原因や進行に関わる特定の物質を標的とした薬です。がん治療においては、がんの表面に生じたタンパク質などの物質や、増殖・転移に関わる物質、がんが免疫から自らを守るための物質などを標的にします。薬の標的が限定されているため、正常な細胞へ与えるダメージを抑えると考えられています。現在では、事前の検査で標的になる物質の有無を調べられるようになってきました。
保険診療
公的な医療保険が適用される技術や薬による医療のことです。1~3割の費用負担で済み、支払った額が、月の初めから終わりまでひと月の上限額を超えた場合には、超えた分の金額を支給する高額療養費制度も利用できます。保険診療で行われる検査・治療は、それぞれ内容が決められており、その範囲内で進められます。
ホルモン受容体
ホルモンには、体の働きを調節する役割があり、ホルモン受容体とは、それらホルモンと作用する細胞内の構造を指します。ホルモンがホルモン受容体と結合することで、細胞内に情報を伝えます。乳がんなどの一部では、がん細胞にホルモン受容体が過剰に発現していることがあります。
ホルモン療法
特定のホルモンと結合することで増殖する仕組みを持つがんに対して行われる治療です。ホルモンの分泌を抑えたり、がん細胞との結合を防いだりすることで、がん細胞を攻撃します。たとえば、乳がんでは卵巣から分泌されるホルモンであるエストロゲンと作用して増殖する場合があります。そうしたがんに対し、エストロゲンの分泌を抑えたり、ホルモン受容体の作用を阻害したりする薬が用いられます。

ま行 の用語一覧

マルチ遺伝子パネル検査(MGP)
複数の遺伝子で変化が生じていないかを一度に調べる検査です。現在は(2024年3月時点)、保険適用で受けることはできません。一種類の遺伝子だけを調べる検査に比べて、それまでに行ってきた検査や、かかったことのある病気からは想定できないような遺伝子の変化を見つけられる可能性があります。
マンモグラフィ
乳腺を調べるための専用のX線検査です。乳房をプラスチックの板ではさんで平たくしたうえで、X線を照射して乳房全体を撮影します。触っただけではわからないような小さなしこりや石灰化した病変も見つけることができます。一般に40代以上の女性を対象に行われる自治体や企業での検診として提供されることの多い乳がん検診方法です。

や行 の用語一覧

薬物療法
薬剤を用いた治療全般のことを指し、がんの3大療法のひとつとされています。薬剤投与によりがんが進行するのを抑えたり、症状を緩和したりすることを目的として行われます。薬物療法だけで完治を目指せるがんは限られ、手術ができない患者さんに対して術前に選択されたり、再発・転移を防ぐために手術後や、放射線治療との組み合わせで提供されたりします。
陽性
検査において、病気の存在を示す情報が検出された場合を陽性といいます。BRCA1/2遺伝子検査などの遺伝学的検査においては、病的バリアントが報告された場合を陽性としています。
予後
病気そのものや、行われた治療における医学的な今後の見通しです。これからどのような経過をたどるのかを予測し、これから良くなる可能性、悪くなる可能性を示します。ただし、あくまで推測であるため、時間の経過とともに変わることがあります。

ら行 の用語一覧

卵巣がん・卵管がん
卵巣もしくは、子宮と卵巣をつなぐ卵管にできる女性特有のがんで、どちらも同じ治療方針がとられています。初期のうちは自覚症状が出にくく、気づいたときには進行していることが多い病気です。早期発見につながるような十分なエビデンスのある定期的な検査は現状(2024年3月現在)ではありません。また、卵巣が骨盤の中の深いところにあるため、画像診断で何らかの病変が見つかった場合も、がんであるかの確認診断のためには、手術で卵巣を切除する必要があります。
卵巣欠落症状
自然閉経になる前に両方の卵巣を摘出することで生じる、更年期に似た症状全般のことを指します。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された方において、卵巣がんの予防のために卵巣や卵管を手術で摘出する場合があり、その結果こうした症状が生じることがあります。
リスク低減手術
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された方に対し、乳がんや卵巣がんになるリスクを減らすために行われる手術で、がんを発症する前に乳房、卵管・卵巣を摘出する方法の総称です。2020年4月から、HBOCと診断され、すでに乳がん、あるいは卵巣がんを発症している方であれば保険が適用されるようになっています。
リスク低減乳房切除術(RRM)
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に関連する乳がんを防ぐため、がんになる前の乳房を切除する手術です。すでに片方の乳房でがんを発症し、治療していたら残り片方の乳房、まだがんを発症していなければ両方の乳房を切除します。乳房の切除後は、希望に応じて失われた乳房を再建する手術が行われます。
リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に関連する卵巣がんを防ぐため、がんになる前に卵巣や卵管を切除する手術です。基本的には小さい切開で済む腹腔鏡を使って行われます。卵管・卵巣の摘出により死亡リスクを下げることができると報告されており、卵巣がんは早期発見がむずかしいため、出産終了後には積極的に検討することが推奨されています。
両側乳がん
左右両方の乳房に生じた乳がんのことを指します。両方の乳房それぞれから生じる場合と、片方の乳がんがもう片方に転移する場合があります。また、両方の乳房に同時、あるいは短い期間で乳がんが生じることを同時性、片方の治療後、期間を置いてもう片方の乳房に乳がんが生じることを異時性といいます。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された方は、そうでない方に比べ、両側乳がんになる確率が高くなります。

わ行 の用語一覧

アルファベット ⁄ 数字 の用語一覧

AYA(アヤ)世代
がん医療において用いられる言葉で、15歳(思春期)~39歳の世代を指しています。AYAとは、Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、就職、結婚、出産といった重要なライフイベントも多く、治療においては社会的なサポートも必要になります。なお、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)には、このような若い年齢でがんを発症しやすいという特徴があります。
BRCA1/2
DNAの変化を修復する働きを持つタンパク質を作るBRCA1BRCA2遺伝子をまとめた呼び方です。このBRCA1BRCA2遺伝子に変化があると、修復に必要なタンパク質が作られなかったり、働かなかったりするので、がんが発生しやすくなると考えられています。すべての人はBRCA1BRCA2遺伝子を両親からそれぞれひとつずつ受け継いでいます。
BRCA1/2遺伝子検査
血液を用いて染色体や遺伝子が関与している生まれつきの疾患や体質を調べる遺伝学的検査のひとつです。BRCA1BRCA2遺伝子にがんとの関連が強い変化がないかを調べます。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の診断や、患者さんがかかっている乳がんや卵巣がんなどのがんに、特定の薬剤が適しているかを調べるために行われます。HBOCの診断として行う際には、一定条件を満たすと保険診療で受けられます。
Cancer
がんや悪性腫瘍を意味する英単語です。
DNA
ヒトの細胞において、核の中の染色体にある物質です。4種類の塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)が長く連なってできています。体を作る設計図といえる物質で、4種類の塩基の並びによって遺伝子の情報を構成しています。化学物質など、何らかの要因によってDNAが損傷した場合に、異常な細胞が作られることがあります。
DNA損傷
DNAに通常の代謝とは異なる形で、切断や化学的な構造の変化などが生じることを指します。主に化学物質や紫外線、放射線などの環境要因によって引き起こされます。人の体において、DNA損傷自体は頻繁に生じていますが、細胞が持つ機能によって修復されています。生まれ持った体質などで、遺伝子の修復機能がうまく働かないと、がんなどの病気が引き起こされることがあります。
DTC(Direct to Consumer)遺伝子検査サービス
医療機関を通さずに、企業が提供する簡易な検査で、直接提供することを意味する「Direct To Consumer」の略語が含まれています。検査は、唾液などを用いて、がんや生活習慣病のかかりやすさに関連した遺伝子を統計的に解釈するもので、保険は適用されず、自由診療として行われます。医療従事者を介さないため、正確な情報を伝え、不安や疑問に応えることのできるような体制が不十分となるなどのおそれもあります。
HBOC
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」を参照。
HER2(ハーツー)
細胞の増殖に関係するタンパク質で、このHER2をターゲットにする薬も登場しています。一部の乳がんでは、このHER2が過剰に作られていることがあります。
HRD
相同組換え修復欠損(HRD)」を参照。
JOHBOC(ジョーボック)
日本人類遺伝学会、日本乳癌学会、日本産科婦人科学会の協力のもと設立された団体である、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構の略称です。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断された方や、その疑いのある方およびそのご家族に対する診療体制の整備と拡充を図り、国民の医療・予防医学の向上に寄与することを目的としています。診療施設の認定や、HBOCに関する教育などを行っています。
MGP
マルチ遺伝子パネル検査(MGP)」を参照。
MRI
強い磁石と電磁波によって、体の中の断面図画像を作る検査で、「Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像)」を略しています。放射線を使わないため、被ばくすることなく、がんの有無や大きさなどを確認できます。乳がんの診察でも用いられているほか、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)のような遺伝的な要因で乳がんのリスクが高い方への検査などで提供されています。
PARP(パープ)阻害薬
がん細胞などで生じている特定の分子をターゲットにする、分子標的薬という薬の一種です。がん細胞において、損傷したDNAの修復などの役割を持つ酵素のひとつであるPARP(パープ)が機能するのを防ぎます。乳がんや卵巣がんにおいて治療効果が期待できるケースとして、BRCA1/2遺伝子に病的バリアントがある場合が挙げられます。
RRM
リスク低減乳房切除術(RRM)」を参照。
RRSO
リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)」を参照。
VUS
BRCA1/2遺伝子検査の検査結果のひとつで、「Variant of Uncertain Significance(臨床的意義不明の変化)」の略称です。検査によって遺伝子に変化が認められたものの、病気を引き起こす原因になっているか判別がつかない場合に用いられます。今後、研究が進むことで、病気になりやすい遺伝子の変化(陽性)、病気のなりやすさには関係ない遺伝子の変化(陰性)のどちらか判明することもあります。
5年(相対)生存率、10年(相対)生存率
がんと診断されてから5年後、10年後に生存している患者の割合です。日本人全体で5年後に生存している人の割合と比べてどの程度低いかで示しており、それぞれのがんにおける治療での救いやすさの指標とみなされています。なお、多くのがんは術後5年が治癒の目安のひとつとされますが、期間をおいて再発することもある乳がんでは術後10年も目安とされています。
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